先日家の近くを走っていたら、向こうから歩いてきたおばあちゃんに突然「頑張ってね!」と言われた。ああいう声かけができる人間になりたい。
📚よんだもの
IQはブルシット?
フランスで特別支援が必要な子どもを見分けるために生まれたIQテストだったが、逆に低IQがスティグマ化され、人種差別や優生思想の”客観的な”根拠として悪用されるようになってしまったそう。IQで測れる能力にはもちろん限界があり、この数値だけで人の知能全、ましてやその人の価値は表せないと記事では語られている。
中でも目を引いたのが、IQは学力テスト同様、訓練すれば得点が上がるものだという指摘。つまりIQはその人の変わらない性質を示すものではなく、単にある地点での、パターン認識などのIQが測りうる能力について教えてくれるだけの数値なのだ。ある種の権威性を持つ指標は山ほどある(収入なんかもそれにあたるだろう)が、それが何を測るものなのかと問う姿勢を失ってはいけない。
いい子にするからWeChatを使わせてください
国内外を問わず中国系の人たちが必ずスマホにインストールしていると言われるWeChat。当初はメッセージアプリとして開発されたが、以来SNS機能や決済機能、ショッピング機能が追加され、果てはビザ申請や離婚届の提出までできるようになるなど、人々の生活のインフラを支えるスーパーアプリとなった。
片手におさまるデバイスで生活のあらゆる面をコントロールできる利便性は否定できないものの、それは裏を返せば一つの企業に生活のすべてを委ねることを意味する。実際に何らかの理由(政府への否定的な意見を投稿するなど)でアカウント停止処分に遭った人は、アカウント復活を懇願する手書きの反省文と、身分証明書を持ったバストアップの写真を運営会社に提出しなければならないようだ。企業が国家や警察組織のような機能を担う状況は本当に便利なのか? 自分の生活がどんなサービスに依拠しているのかを確認する契機となった。
公にしないことの価値
ニュースレター「The Convivial Society」で「Antivirals(反バイラル)」についてのエッセイを読んだ。著者マイケル・サカサの友人が知人と一緒に街中を歩いていたとき、見ず知らずの人に親切な行いをしたが、誰もその様子を見ていなかったそうだ。その友人はすぐさま自らの行いを知人に伝えようとしたものの、そうすることで善行が台無しになるような気がし、結局胸のうちに留めておいたという。著者はソーシャルメディア上を日々流れるバイラルコンテンツと対比し、友人の行為を「アテンションエコノミー」とも称される経済圏への抑圧に対する抵抗という観点から論じる。
誰からの称賛も期待せず、後からそれを求めることもせず、当事者間だけにとどまる行為に埋没すること、それは今やとても難しいことなのかもしれない。
🏄🏻♂️ためしたもの
テキスト生成ツールLex
さまざま論争を巻き起こしている画像生成AI、DALL·E 2の開発元OpenAIは文章生成の分野においても業界を牽引している。同社が開発した言語モデルGPT-3はすでにMicrosoftの一部のサービスにも活用されており、コーディング・文章作成支援でその力を発揮している。そのGPT-3を活用したサービスにLexというものがあり、ウェイティングリストに加わったところ、先日アクセスが許可されたので使ってみた。
LexにはネイティブでGPT−3が統合されているので、ボタンやキーコマンドで簡単にGPT−3を活用できる。具体的には、執筆が行き詰まったときにその次の一手(どころか2段落くらい)を提案してくれたり、文章全体に合ったタイトル案を考えてくれたりする。そのまま使えるかというと怪しいが、分野によっては十分助けにはなるレベル。まとめブログのようなものはLexを併用すればかなり短い時間で書けるだろう。現状は英語のみ対応だが、DeepLなどを組み合わせれば各種言語で同じようなことができる。
画像生成AIはその魔法のような仕組みから多くのネット民を熱狂させ、個人ニュースレターでは画像のキャプションに「image created with DALL·E」と記されているのを何度も見かけたうえ、Adobeなど大手テック企業も自社プロダクトへの導入を進めているようだ。その一方で、トレーニング素材となった画像を生み出したアーティストは何の恩恵にもあずかっていないどころか、生業を失うリスクに晒されている。「AIを使って描画や執筆を民主化する」というマントラを完全に否定する気はないが、その結果誰が利益を得て、誰が犠牲になっているのかはユーザーとして意識すべきだろう。
個人的にはブラックボックス的なところにどうも引っかかりを覚える。便利なものを手に入れる度に自分の力、もしくは力を獲得する可能性が失われるような感覚を覚えるのだ。これは杞憂かもしれないし、その根源は驕りなのかもしれない。また描くことや書くことの裏にある思考や逡巡には、他者への思いやりが隠れている気がしてならないが、このあたりはまだ考えがまとまっていないので、別の回に書きたい。
🎧きいたもの
ガボール・マテのインタビュー
トラウマに関する研究や著書で知られるハンガリー系カナダ人の医師・著述家ガボール・マテのインタビュー。「我々は出来事に反応しているのではなく、その解釈に反応しているのだ」というパンチラインが響いた。彼の冷静でゆったりとした語り口も好き。
Burn Book by Sobs
シンガポールのインディーポップバンドSobsの新アルバムで気になった曲。高校生の頃によく聴いていたWeezerやSilver Sunを彷彿とさせるノイジーなギターと頼りないボーカル、アルバム全体を通して放たれる眩しいほどのポップさ。現実逃避にぴったり。
それでは、また次週👋